「 ひたすら防衛費を削る日本の異常 」
『週刊新潮』 2010年9月2日号
日本ルネッサンス 第425回
政府民主党は一体何をしているのか。党のエネルギーはその全てが9月14日の党代表選に向けて小沢対反小沢の勢力争いに注がれているかのようだ。その間、日本経済は円高に直撃され、株は8月24日に終値で9,000円を割り込み、さらに、日本の安全は中国の軍事力増強に揺さぶられ、日米安保体制の弱体化が顕著に進行中である。にも拘らず、菅直人首相も仙谷由人官房長官も、まったく有効な手を打てていない。
8月は本来なら、予算編成の土台となる概算要求と、次年度の政策目標についての議論が活発に展開される月だ。しかし、民主党はグループ、つまり派閥の数合わせに終始する余り、まともな政策論議もしていない。権力争いに熱中する菅政権は文字どおりの無策内閣である。幾つか発信されてきた菅民主党の予算編成に関するメッセージも支離滅裂である。
まず、7月27日の臨時閣議で、予算編成の基本として各省庁の一律10%削減が閣議決定された。但し、年金、医療、高校の実質無償化、農家の戸別補償、高速道路無料化などは例外で、削減は求められていない。
こうした中、長妻昭厚労相は8月3日の記者会見で、来年度の子ども手当は、月額1万3,000円に上積み分を現金で支給したいと述べた。
厚労省予算で、子ども手当分を含む社会保障費の自然増は約1・3兆円で、1割削減の対象外である。野田佳彦財務相は、他省庁から削減予定の2・4兆円の中からこの分を負担すると述べている。
1・3兆円の自然増には地方自治体が負担した6,138億円と企業負担の1,436億円の計7,574億円は含まれていない。地方自治体と企業の子ども手当負担分については、原口一博総務相が「今年度の暫定的措置」だと述べた経緯もあり、来年度は政府負担になる。従って新たに約7,600億円の財源が必要だ。
菅首相も23日、新人議員との会合で「09年のマニフェスト実現」に言及した。首相発言を信ずるなら、子ども手当は月額2万6,000円に向けて増額するということだ。民主党全体が子ども手当増額の姿勢なのであり、その財源は他省庁から奪い取って当てるということだ。国家戦略なきバラ撒きなのである。
ただ一国、防衛費減
同党は、政権交代の最大の意義は新たな発想による予算編成にあると明言する。おカネの使い方は価値観を反映する。したがって彼らの主張は正しい。その伝で言えば、民主党の予算編成は個人の安寧に焦点を当てる一方、国家の全体像をまったく顧みないものだ。個人があって国家がないのである。その点が最も顕著に表れているのが防衛省予算である。
国際社会の軍事歳出は過去10年間、顕著に増加した。米国への同時多発テロに象徴される新たな対立軸の出現や、類例のない軍拡に邁進する中国の脅威などが主たる原因である。
各国の国防予算はどれほど増えたか。中国の軍事予算は常に不透明で正確な数字は掴み難いが、「ミリタリー・バランス」の統計では、この10年で4・8倍。突出した伸びである。他方、米国は2・4倍、カナダ2・9倍、ドイツ2・0倍、英仏が共に1・8倍に達している。アジア諸国も同様だ。中国がライバル視するインドは2・3倍、親中的豪州でさえ3・3倍、韓国は1・9倍である。
対照的なのがわが国だ。防衛予算は減少を続け、10年で0・97倍に下がった。中国の脅威の前で、ただ一国、防衛費減の国が日本である。さらにその中身を吟味すれば、減少の意味する深刻さに背中が寒くなる。
防衛予算は大まかに言って①人件・糧食費、②歳出化経費、③一般物件費の三層構造になっている。
①は自衛隊員の給与、諸手当、子ども手当、退職者給付金、公務災害補償費、予備隊員手当等で、陸海空で2兆850億円である。②は装備品などの年賦、つまりツケ払い費だ。戦車、飛行機、艦船などの装備は数年間の分割払いで発注される。修理や部品も同様で、計1兆6,750億円だ。③は基地対策、教育訓練、防衛用燃料、研究開発など諸々の支払いで、9,225億円。ちなみに基地対策の大きな支出は騒音対策だ。
右の三層構造に米軍再編関連の歳出等を加えて4兆7,903億円。ざっと見て、これが防衛費の全体像だ。
①と②は予算不足だからといって、払わないわけにはいかない固定費である。米軍再編に伴う費用も同様だ。残された削減対象が、③の一般物件費、9,200億円余りである。だがここを削った場合の日本の安全保障への影響は死活的に深刻である。
防衛省幹部の1人が嘆いた。
「1割削減は4,700億円です。固定費削減は不可能ですから、結局、一般物件費の9,200億円から4,700億円を捻出せよということでしょうか。普通は何とか知恵が湧くものですが、今回ばかりは何も湧きません。工夫や知恵の次元を越えて、滅茶苦茶だと感じます」
蓮舫氏にとって必要なこと
一般物件費には、前述のように騒音対策などの基地対策費3,880億円余や、燃料費840億円余なども入っている。9,200億円から半分以上の4,700億円を捻り出すとすると、削りにくい基地対策費よりはその他の部分で削ることになる。それでは、自衛隊は訓練をはじめ、領空、領海侵犯に対しても、殆ど行動出来ない状況に陥る。国防が置き去りにされる事態が発生する。
日本の財政の深刻さは言わずもがなだ。しかし、どの国も、経済的困難にも拘らず国家の安全保障に何が必要かを判断し、安保上の必要性に基づいて歳出を策定している。
その発想が、日本、とりわけ民主党政権には欠けている。昨年の事業仕分けが示していたように、安全保障費は国際社会で独立国として生き残っていくためのコストであるにも拘らず、国際社会の状況変化を顧みず、財政事情にのみ基づいて決めたのが民主党だった。今年もまた民主党は、周辺諸国の国防費増額の動きの中で、ただ一国、ひたすら防衛費削減の方針を掲げるわけだ。
たとえ政府が国防の重要性を理解出来なくとも、国防体制を確かなものにしておかなければ、日本が危うい。どんな手を打てるのか。苦肉の策として、削減不可能な固定費を削減項目に入れて財務省に提出し、それを以て問題提起としたいとの考えが、防衛省内に浮上している。
対して蓮舫行政刷新相は8月18日、「義務的経費で削ることが出来ない事業を載せる動きがあると聞いている」と批判した。行政刷新相の責務が、兎も角も無駄を削減することにあればこその発言であろう。しかし、蓮舫氏にとって必要なことは、国務大臣として、また一人の日本国民として、日本の安全保障のために何が必要なのか、その必要項目を如何にして実現するかを真剣に考え工夫することではないだろうか。
櫻井さん、それじゃ村田さんにはわかりませんよ。…
一部の知識階級を自称する人たちから偏執狂とまで言われる櫻井よしこ氏のブログだが、
「 ひたすら防衛費を削る日本の異常 」
で、防衛費の必要性を理路整然と、しかも非常に正確なデータと洞察に基づいて書いておられるんだが、今の世の中、特に民主党政権(の中枢にい…
トラックバック by knowledgetraderのブログ — 2010年09月11日 18:06
領土問題を漁業権に矮小化してはいけない。…
先の記事、「実力行使や既成事実化には他に対処法は無い。」で、尖閣諸島に関してごく基本的な考え方を書いたが、マスメディアでの取り上げ方に違和感を感じたので、一例を引用する。
尖閣沖衝突事件 中国人船長の逮捕は当然だ(9月9日付・読売社説)
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トラックバック by knowledgetraderのブログ — 2010年09月13日 13:39
弱小国の悲劇…
●日本が本格的に採掘開始したらもうかるの?
…
トラックバック by 経済的自由人を目指す会 — 2010年09月18日 23:55